2016年の夏にRepRapに面白い投稿がありました。CycloidalExtruderDriveというタイトルです。RepRap Community Japan創設者のGenieさんからパーツの共同購入のお話しを頂いたことで興味を持ちました。開発したのはpowdermetalさん。小型のExtruderとして、熟考された素晴らしいデザインです。
Delta型プリンタはEffectorユニットの軽量化が造形精度と速度に直接影響します。特に造形精度を上げるために鉄球と磁石をリンクに使用した場合には、脱落を避けるためにもEffectorユニットを出来るだけ軽くする必要があります。その点から、押出用のモータはフレームに固定して、内径2mmのPTFEなどのチューブを使って押し出したフィラメントがノズルに供給されるーいわゆるBowdenタイプを使用するのが一般的でした。ABSやPLAなどの材料はこのBowden方式でも特に問題はありませんが、熱可塑性エラストマー(TPE)などの柔軟な材料では力の伝達が悪くなり、時間的な遅延や材料のチューブ内での逃げにより正確な造形が出来ない状況でした。
このような材料ではホットエンドユニットに出来るだけ近いところから押し出す必要があり、これまでいくつかの方式が考案され発表されてきました。
- パラレルリンクとは別に各タワーのキャリッジからゴム材を使って押出ユニットを吊る-Flying Extruder。
- モータを押出機から分離し、柔軟なケーブルを介してEffector上の押出機内のドライブギアへ回転力伝達する- Remote Direct Drive(RDD)。
1.の方式は、共振の問題がなければそれなりに機能すると思います。2.の方式は、ケーブルは絶えず曲率が変化しており、回転は正逆の両方があることから、回転力を伝えるケーブルの伝達能力により特性が左右されます。
冒頭でご紹介したCycloidalExtruderDriveは、上記方式よりストレートな解決法です。すなわちEffectorに直接押出機を搭載しようという試みです。50gのモータにサイクロイド減速機を組み合わせることで、押出機の重量が80g程度にできるとのこと。これならばEffectorに乗せても動作への影響を少なく出来る可能性を持っていました。
通常、押出機に使用するステッピングモータは必要パワーからNEMA17が選択されていて、これは重量にして260gほどあります。
ちなみに、以前ご紹介した爆速TrinoのEffectorは154gです。磁石との静的な吸着力は一つ約80gなのでEffectorに接続された6個で480g。自由に動作させるには、そのおよそ半分の240g程度が限界になります。
まずは、オリジナルのパーツを作成し、動作の確認を行いました。突き当たったのがサイクロギアの材質と作り方でした。用意した材料はABS, PC, POM, XT-CF20などです。寸法のリファレンスとしてSLAのアクリルも用意しました。
求められる材料の特性としては、高強度と低摩耗係数です。摩耗係数的には6ナイロンが良さそうですが、Taulmanの618ナイロンでは少し強度不足かと思い、POMを使うことにしました。
下表は鉄に対して摺動させたときの樹脂の代表的な摩耗特性で、値が小さいほど摺動性が良いといえます。
材料 | 摩耗係数 | 摩耗速度(µm/km) |
66ナイロン | 0.35-0.42 | 0.9 |
6ナイロン | 0.38-0.45 | 0.23 |
PC | 0.52-0.58 | 22 |
PET | 0.25 | 0.35 |
POM | 0.32-0.34 | 4.6-8.9 |
PP | 0.5 | 8.4 |
CycloidalExtruderDriveのオリジナルデザインは、E3D V6をEffectorの底面より下に配置するものでした。これによりアームとの干渉を防げますが、造形できる最大高さが低くなってしまうことに加え、プリント中の材料が変形してノズルに接触したりした場合にロッドアームが外れやすくなります。そこで、改造Trinoで行ったEffectorの底面とヒートシンクの下面を合わせる設計に取り組みました。
ドライブギアは以前解説したBondtech Miniを使うことにしました。両刃挟みこみ押出機構のBondtech Miniを使うことでフィラメントとの滑りや削りの問題がなくなりますので、もし押出に問題があった場合の原因の切り分けが容易になります。また、オートレベリング用のセンサーは、これまでのマイクロスイッチを使った接触式からIRセンサを使った非接触式に変更しました。このIRセンサユニットはdc42さんが開発したものです。
新たなデザインの課題は2つありました。1つはアームとの干渉を抑えること、もう一つはアームの磁力による冷却ファンへの影響です。前者についてはCAD上で検証することによりこれまでと同じエリア(170mmΦ)での干渉を抑えられるレイアウトを見つけることができました。
設計ファイルはこちらにアップロードしてあります。
プリントアウトしたモデルとパーツ
次に冷却ファンへの影響は、出来るだけ磁石との距離を稼げるレイアウトにすることと、組み上げた後の実験により、ファンと磁石の両方をパーマロイ箔でシールドし、磁石の磁力がモータに影響しないようにすることで解決しました。
シールド前は、アームロッドの位置によりファンが機能しなくなりました。
こちらは効果的な磁気シールド後のチェックです。ほぼどの位置でも回転への影響はありません。
一連の対策を行った後のEffectorの重量は212gで目標値をクリアしました。
これら一連の改良の結果、良好なプリント結果が得られています。
途中は8倍の再生速度にしていますが、いつものアマガエルでテストを行いました。プリント時間は30分でした。
なお、耐久性については、100時間ほど稼働させた後に摩耗の状況を確認しようと思っています。問題があるようなら、ナイロンやPEEKで作成することを考えています。